えいあーるれいの技術日記

ROS2やM5 Stack、Ubuntuについて書いています

炎上&回収された某Web3解説書、何が問題だったのか!?(いちばんやさしいWeb3の教本)

2022年、7/20に発売された某Web3解説書はIT界隈を超えてインターネット上で話題となり、瞬く間に発売中止となりました。

理由は「内容がデタラメである」と言われています。

この本は数日経った頃に購入ができなくなり、回収の発表がありました。

book.impress.co.jp

この発表により更に注目されるようになり、むしろプレミア価格が付くほどの(別の意味での)人気を獲得することとなりました。


なぜこの本が出され、一体どこが問題だったのでしょうか?

買わずに批評するのは非常にまずいですし、なんならチョット読んでみたかったこともあり、1冊入手しました。


結論から申し上げると、この本の問題は

  • タイトルが非常にまずい

  • 1章・2章の内容がサーベイ不足

  • 端折り方が下手

の3つにあるのかなと考えています。


内容の問題点については、発売当初からかなり多くの人に言われていますしここで述べるまでもないと思うので、割愛させていただきます。


ビジネス本としては普通な気がする。

「内容がデタラメ」であると散々言われまくっているこの本ですが、後半だけについては論法について問題はなく、でたらめなことは言っていないように見えます。

おそらくこの本は「最近流行りのビジネスワード"Web3"」に興味を持った人が書店(ないしはネットショップ)でさらっと読む感じの想定で話を進めているように見えるので、(この本でいうところの)Web2以前のお話は難しくしすぎないようにしようと考えていたのでしょう。


そのため、この本は「技術紹介書」ではなく、「ビジネス書の補助教材」という立ち位置が正しい解釈に見えます。


しかしながら、Web3の基礎となっているblockchain技術を理解するには、公開鍵暗号を理解することから始まるため、その分野のベースとなっている知識がないとなかなか厳しいでしょう。素人はおそらく3章まではそもそも深く理解しようとしないでしょう。(Web3にしか興味がないという前提だからです)


ただし、専門分野を素人に分かりやすく解説するのは、私が常日頃頭を抱える問題であるので、「著者は無責任なことを言っている!」と評価するのはあまりにも酷だと感じます。彼は題材とタイトルを間違えただけなのです。

「適切なタイトル」というのもなかなか難しいですが。


無料公開しなければ…

全体的にサクサクと読める(ように意図的に編集した)内容で、読みやすい印象がありました。

そのため、公開しない・あるいは仮に公開した情報が5章以降だったらそれほど炎上しなかったのではないかと考えています。

何かしらのサービスに誘導しようとするわけでもなく、「調べてみてください」という促しは好印象でした。


このような書籍を読まなくたってどうせ似たような書籍を読む読者がいることを考えれば、「害がある」みたいな論調の批判についてはそれほど問題ではないと考えています。

出費が1500円で済むならむしろ良心的だと思いますね。ハイ。


以上、擁護編(救えない)でした。


問題点:Web3が何かを超越したものとして扱われているような表現

「GAFAMがプロトコルを独占している」や「Web3上でのOSはblockchainで構成されます」などの迷言を生み出したページです。(特にOSのくだりはやばい。イーサリアムOS?????、Linuxはどこへやら)

論法にも、あやふやなところが多く、「Web2とWeb3の比較の結果Web3が優位である」という説明は物足りなさを感じてしまいます。

確かに、現環境におけるSNSなどのサービスへの誘導は非常に巧みに作成されており、いつの間にかそのプラットフォーマーに依存する状況になっているのは間違いないと思います。

一方で、現在のGAFAMのサービス独占の状況は過去の開発者やユーザの選択の結果でもあると思います。

その状況を踏まえた上で、Web3をユーザが「選択する」プロセスを書かないと、「なぜ私達がWeb3に乗り換えるべきなのか」という疑問を解決できず、Web3がなにか未知のもの・現在の常識を超越したものに見えてしまいます。

プラットフォームやツールを選ぶのは私達のはずなのに、なぜWeb3がWeb2に代わって支配的になり乗り換える前提で話が進んでいるのでしょうか?あと数年後に世界的にWeb2を禁止する法律ができるのでしょうか?

私を含めてWeb3に対して懐疑的な方々はそのように感じられていると思います。

そもそもセキュリティについては分散化や暗号化技術は既に実現しているので、Web3がめっちゃ優位だとはこのような説明では実感しにくいと思います。(←それがプロトコルの独占だとか言われたらまぁ…とはなりそう)


blockchainでOSを構成しようとする動きはあるみたいで、SNSやブラウザなどの他のサービスについても実在しているみたいですが、これらのサービスはWeb3時代の始まりのプロジェクトに1つに過ぎず、「代わって使われるようになる」というにはまだ(10年以上も)早い気がしました。

以上より、あのデタラメと言われているページは、「超頑張って素人向けに砕きまくった結果」であり、その意味を100%理解するのであれば専門的な知識と圧倒的サーベイ力が必要となります。

この本は我々に向けた暗号だったのでしょうか…?


他の問題では、「図・表が曖昧でわかりにくい」や「参考に作成した画像がほとんど元の本とそのまま」などが挙げられており、「教本」を名乗るのにはふさわしくないようにも見えます。

どちらかといえば超長い(意識高い系)ブログ記事に近かったです。


感想 : 回収するほど酷くはないが…

あまりにも逆張りな感想を抱くことになってしまった自分が信じられませんが、回収するほど酷くはないと思います。

ただ、タイトルはまずかったと思います。

「いちばんやさしい Web3の"教本"」なんて書き方をしたら、本当に学びたい人もターゲットにしているように見えます。実際そうなんでしょうけど。


サクッと読めることを考慮するのであれば、分量についてはやむなしだとは思わなくもないと感じましたが有料Noteとかでもいいのではとも感じました。

領域的に分からないところについてはしっかり調べたり、 構成を相談すべきだなと感じました。


あとは、このような本は他人事ではないと思った次第です。

私の記事も端折っている部分はありますので、前提条件については、過去の経緯を見つつ平等に比較できるように心がけたいと改めて思いました。


なにかと話題の絶えないWeb3・blockchainですが、まだまだ結論を出すにはドキュメントが枯れきれていない感があるので、分断を生まない程度に発信していってほしいと思います。


参考書籍

田上 智裕. いちばんやさしいWeb3の教本 人気講師が教えるNFT、DAO、DeFiが織りなす新世界 (「いちばんやさしい教本」シリーズ) ISBN : 978-4295014454